日々の生活の平安と幸福に感謝して、神社にお礼を言うために参拝に行く。
神社へ行く道すがらに水色の着物を着た女性がしゃがみ込んで地面を見ていた。
よーく見ると体が透けている。
やばい、霊だぞ霊。
しかも水色の服を着ている。きっと池内忍と同じ系統の地霊に違いない。
相手にならないのほうがいい。無視だ無視。
目の前を無視して通り過ぎようとすると、案の定声をかけてくる。
「もしもし、お兄さん、あなたに人生のビックチャンスをさしあげましょう。」
ほら来た。
無視、無視。
無視して通り過ぎていくと、その水色の霊体は少し考え事をしてから大声で叫んだ。
「あ!お兄さん、直木賞受賞の運気を落としましたよ!」
私は反射的に後ろを振り返った。
「え!直木賞!どこ!どこ!俺、直木賞取れるの!?」
それを見て水色の霊は「ぷっ」とふきだす。
やっぱりたちの悪い霊だ。
無視、無視。
「あ!こんなところに芥川賞を取れるチャンスが!」
水色の霊が叫ぶと、悲しいかな私はパブロフの犬のごとく
反射的に振り返ってしまった。
水色の霊の指さす方向、アスファルトに地面の上には黄金に輝く犬のウンコが落ちていた。
「この黄金の犬のウンコを食べれば、あなたは地位と名誉と栄光が得られるのよ。」
水色の霊はそう言う。
「いや、どう考えたって嘘だろ、だってそんなもん食う奴いねーよ。」
私がそう言うと、水色の霊はわが意を得たりとばかりに目を輝かせた。
「そうよ!そうなのよ!誰もやらない事、誰も勇気がなくてできないこと、
わかっていてもできない背徳な行為!だからこそ、あえて、
その誰もやらないことをやった者こそ真の勇者たりえるのよ!」
その水色の霊の言葉に、少しだけ体がゆらぎかけた自分が情けない。
でも、黄金といっても所詮犬のウンコだからな。
そこまでして栄光なんてほしくねえや。
「そのブドウは酸っぱいんだ!だから俺はそんなもの食わねえよ!」
私は黄金のウンコを指さしてタンカを切った。
「いや、ブドウじゃなくてウンコだから、黄金のウ・ン・コ」
水色の霊はすかさず突っ込みを入れた。
だめだ、だめだ、こいつのペースに惑わされたらいけない。
「そんなウンコ、食ってあげないんだからね!フン!」
そういって私は目を閉じ、耳を手で塞いて
「見猿!言わ猿!聞か猿!」と唱えながらその場を走り去った。
家に帰って、すごく憂鬱な気持ちになっていると池内慶がやってきて私の顔を覗き込んだ。
「だいじょうぶ~?」
池内慶に道で出会った奴のことを聞いてみた。
「江匿罠(こうとくみん)だよそいつ、よくインテリの大学教授とか偉い文芸評論家の先生に憑依してるよ。」
と池内慶は言った。
なんだ、文芸界の偉い先生に憑依してるのか・・・・。ならあの黄金の犬のウンコを食えば、
俺は地位と名声と栄誉が・・・・、いや、食わない、食わないって、そこまでして地位と名声と栄誉なんて。
「ねえ、何泣いてるの?」池内慶が聞いてきた。
泣いてなんかいないやい!
そのあと、池内慶は言葉をつづけた。
「もしかしてさ、その黄金の犬のウンコ食べたら、偉い文芸評論家の先生は認めてくれるかもしれないけど、
その他数百万人の人たちはドン引きすると思うよ。」
その池内慶の言葉を聞いて、私は自分の目からウロコが落ちて地面に落ちて割れる音を聞いた。
そうだ、そうだよね、みんなドン引きするよね。
「そんな事しなくても、みんなと楽しく暮らしてればいいよね。」
私がそう言うと、池内慶は「そうだよ、今のままの自分でいいんだよ、素の自分のままでいいんだよ。」
と言って頭をなでてくれた。
なんだか少しホッとした。
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いくら自分に選択権があると知っててもすごいおためしですね。
やはり、ゆるぎない信念がないと私のような強欲なものには、すごく悩みそうです。
やっぱり一人に一個池内慶が必要ですね^^