空想ファンタジーブログです。 私と脳内タルパたちの愉快なヨタ話。
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氏神様のお使いの藤子さんが西に向かって歩いて行く。
私の家の前を通られたとき、池内慶がその姿を見つけた。
「藤子ちゃん、聞きたいことがあるの。」
池内慶が言うと藤子さんはすまなさそうな顔をする。
「ごめんね、実は智伯さんに頼まれ輪坂のマンション建設予定地に出た化け蟹を退治しにいくのよ、
智伯さん年末のごあいさつ回りに行かれるお坊様を守るお仕事が忙しいんですって。」
それを聞いて池内慶は「慶たんも行く!」と言った。
通常、地霊は地霊の住む本拠地からあまり遠くへは行けない。
しかし、神社のお使い様の法力を借りてならある程度と遠くまで行くことができるのである。
「あらそう、じゃあ、御用が済むまでお利口にしててね。」
藤子さんがそう言うと池内慶はうれしそうに「うん!」と言った。
道すがら池内慶は藤子さんに尋ねた。
「偉い霊は属性とかないの?」
それに藤子さんは答える。
「そんなことないわよ、神様にも風神様や雷神様がいらっしゃるし、火の神様も
剣の神様もいらっしゃるのよ。」
それを聞いて池内慶は首をかしげた。
「この前、属性のない変なのが来たのね、そいつは、自由に色々なところに行けてずるいの。
おかしいよね。」
慶がそう言うと藤子さんは頬笑んだ。
「あら、それは浮遊霊ね。そういう子たちは人に憑依しないと生きていけないし、
人から忘れ去られたら消えてしまうし、地霊みたいに何千年も生きられない
かわいそうな子たちなのよ、だからそっとしておいてあげなさい。」
藤子さんがそう言うと慶は「ふーん」と言いながら口をとがらせた。
目的地に着くとマンション予定地のバラスをまいた地表の上、小さな竜巻が起こり、
そこから15メートルはあろうかという巨大な緑色の蟹が現れた。
いわゆるワタリガニの系統の蟹だ。
「我が土地を荒らす者よ立ち去るがよい。」
巨大蟹は唸るように言った。
池内慶「それでねー、あの人がね、慶たんがいるのに、あんなの呼んできたんだよ。」
藤子さん「あら、そんな事いっちゃダメよ、その子だってさびしかったのよ、きっと、
仲良くしてあげなさい。」
巨大蟹を無視して雑談する二人。
「退治に来たんと違うんかいワレ!」巨大蟹が怒鳴る。
池内慶がちょっと不快そうな顔で巨大蟹を見た。
「もう、うるさいなあ。」そう言いながら手を天にかざすと手の中から細身の剣があらわれた。
池内慶は素早く巨大蟹の後ろに回り込んで思いっきり剣を振りかざして、蟹の甲羅の上に
剣を叩きつける。すると、「カン!」と硬い音がして剣が跳ね返された。
「あ!剣が効かない!」池内慶は目を見張って驚いた。
いままでこんな体験をしたことがなかったのだろう。
「くくくっ、齢千年を超えた我の霊力の甲羅は、いかなる刃物、打撃攻撃、魔法攻撃も通用せぬ
不死身の体よ、我が無敵の力の前に屈し、空しく滅びていくがよいわ!」
叫びながら巨大蟹は藤子さんに突進してきた。
「危ない、藤子ちゃん!」池内慶が叫んだ。
「死ねええええっっっっ!!!」巨大蟹は鋭い爪で藤子さんの胸めがけて突きをくりだしてきた。
藤子さんはそれをヒョイと避けると、巨大蟹の爪の腕に腕挫十字固をかけて、思いっきり逆関節に
折り曲げた。「プチン!」と変な音がして巨大蟹の爪がもげた。
「ぎゃあああああ!!!!」巨大蟹が悲鳴をあげた。
「あらあら」藤子さんは微笑をうかべながら、もう一方の爪もつかんで逆関節に折り曲げて
もぎ取った。「ぐわあああああ!」巨大蟹が叫ぶ。
「さてと、慶ちゃん、この近くにディスカウントスーパーがあるんだけどウインドーショッピングしていく?」
藤子さんは池内慶に尋ねる。
「うん、慶たん、ウインドーショッピング大好き!」池内慶は元気よくうなずいた。
「ちくしょう・・・・・・最後まで無視しやがって、おぼえてやがれ。」巨大蟹は両方の爪をもがれ
ブクブクと泡をふきながら地面に沈んでいった。
その場を立ち去りながら、池内慶は藤子さんに尋ねた。
「ねえ、あの大きい蟹、甲羅めくってカニみそほじくったりしないの?」
それに藤子さんはほほ笑みながら答えた。
「ああ、殺さないのかってこと?だってかわいそうじゃない。昔みたいにここも
木がいっぱい生えた森ならあの子も悪さしをないですんだかもしれないし。
きっとあと千年もすればあの子の爪も元通りになって、普通に生活できるようになるわ。
その千年後にこの辺りが緑がいっぱいある森だったらいいわね。」
それを聞いた池内慶は真剣な顔になった。
「千年後、人間が滅びてるってこと?」
すると、藤子さんはすこし憂いを含んだ表情で首をかしげた。
「さあ、先の事は誰にもわからないわ。」
こういうお話聞くと、とっても切なく悲しい気持ちになります。
うちの近所の小さい林にも、最近タヌキが住み着くようになりました。今まで何十年も見たことなかったのに・・・
周辺の開発が進んで、住む所が無くなったみたいです。
藤子さんの言う「千年後の森」が、いい意味での未来ならいいけれど。
それにしても、藤子さん、強い・・!