私からものすごく離れたところで一人で遊んでいるタルパがいます。
だけどかなり大きいので目立ちます。
池内慶に聞くと「あれは地霊じゃないよ。」と言います。人工的に作られた霊らしい。
誰だろう。
私がいままで見たタルパの中では一番大きいです。
2メートルくらいでしょうか。
胸が大きくて美人のお姉さんで、長くて赤い髪を後ろで輪ゴムで留めています。
黒い鋼鉄の鎧を着て、巨大な矛の武器をもっています柄が黒で刀は青龍刀みたいに
大きく刃の切っ先から付け根まで赤いラインが入っています。
かなり大人っぽい魅力的な女性で身長が2メートルくらい大きいのに、
いつもボロボロに薄汚れたぬいぐるみと遊んでいます。
「あれは分別がつかなくて、危ないから近寄るな。」と池内剣が警告してくれました。名前を麗希。
でも、なんであんなとろこにいるんだろう。
どうも気になってしかたがありません。
見たこともない薄汚れた、おそらくもともと白いぬいぐるみなんだろう。それとずっと
お話しています。でも、もう薄汚れていてきばんでいます。
もし、親でもいれば捨てるんでしょうが、あの子は一人だし、誰も新しいおもちゃを与えないから
しかたなく遊んでいるんだろう。
でも、あまりにも熱心に遊んでいるので、ある意味不気味です。
あまりにも気になったので、ちょっと近づいて、せめて、そのぬいぐるみが何であるか
たしかめたくなりました。
麗希が毛布にくるまって寝ている時を見計らって、こっそり近づいてみました。
うすよごれた、クマのぬいぐるみでした。見たこともない。
しかし、突如して私の目から涙があふれだしました。
私は生れて物心がつく前から5歳くらいまで、大切にしていたクマのぬいぐるみがありました。
くま公と言います。
大切な友達でした。大好きでした。あまりにも大切にしすぎて、絶対に離さなかったので、
しだいに薄汚れ、ボロボロになっていきました。
最初は白クマのぬいぐるみだったのでしょう。最後のほうにはちょっと茶色みががった
クリーム色になっていました。
家族は、あまりに私がそのぬいぐるみを愛することに危機感を覚えたんでしょう。
そのぬいぐるみに依存しすぎるがあまり、自立できなくなってしまうことが怖い。
あるとき、私が寝ている間に、そのぬいぐるみを捨ててしまいました。
「くま公どこ!?」家族に聞いても「え?何?そんなもの最初からないよ。」
と言われました。私はくま公をさがしまわりました。そして泣き明かしました。
そして、あまりのショックのあまり、くま公を記憶から抹殺したのです。
私は恐ろしくなりました。恐怖で体がすくみました。
目を閉じて、耳を手でふさいで、麗希の傍から走って逃げました。
池内慶たちがいるところまで逃げてくると池内慶が心配そうに私の顔を
覗きこみました。恐ろしかった。
「だから近づくなって言ったのに。」池内剣がものすごく嫌な顔をして言いました。
ちょっと心が落ち着いてから家族に私が幼いころ、
大切にしていたクマのぬいぐるみのことについ尋ねました。
誰も知りません。嘘をついているのではなく、本当に誰も知らない感じでした。
それほど、家族にとっては取るにたらない事だったのでしょう。
それか、私の妄想なのか?そう思うと、また少し怖くなってきました。
連中の魂の存在の片鱗を垣間見てしまいました。
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