久しぶりに近所のスーパーにお買いものに行きました。
人間というものは、同じ行動ばかり繰り返していると飽きてくるものですが、
霊は同じことを繰り返すのが大好きで、人間が刺激を与えてあげないと、
ずっと同じことをしています。
一時期、池内系たちをほっておいて、かなり怒りを買ったらしく、
しばらく私の前に姿を現さなかったんですが、
電撃小説大賞に応募した小説の中に、脇役として出してあげたら、
喜んで、小説の中に出てくる地獄の亡者どもを殺しまくっていました。
それでだいぶん溜飲を下したようで、池内系の連中も、それ以後、
ちょくちょく私の前に姿を現すようになりました。
とはいえ、精霊とは楽しいことが好きで、温厚な性格の存在なので、
本当に誰か殺すわけではありません。
小説という空想の中で戦いごっこをするのが好きなのです。
それで、私の手助けもできるということで、とても喜んでやっていました。
小説とか、空想の世界にはいりこんで暴れたり、遊んだりするのは
大好きみたいですね。
実際の現世の人間の関係の中に入り込んでいったりするのは、
嫌いみたいです。
自分が人を束縛するのも嫌いだし、自分も束縛されるのが嫌いのようです。
自由に遊んでいることが一番好きだと言っていました。
スーパーに行くと、なすの煮つけが置いてあって、それを見つけた
池内慶は「あ!てんとう虫さんだよ!買って!買って!」と言いました。
そのあと、自分がおねだりしたことに気づいて、ちょっと顔をあからめ、
「あ、いや、てんとう虫さん奇麗だね、かわなくてもいいよ。」
と言い直しました。そのしぐさがかわいかったのでなすの煮つけを買ってやりました。
すると、それを横で見ていた池内忍が「あら、池内慶だけに買ってあげるの、ひいきするの、
あっそう、そうなのね、あんたはそういう性格なのね。あっそー。」
とブチブチ不満を言ってきます。面倒なので「じゃあ、何か買ってやるよ。」
というと「半額シールが貼ってある商品を買いなさーい!」と言ってきた。
それで、店の中を見渡して、半額シールの貼ってある商品を見つけたらしく、
私を誘導していった。
そこには、生こんにゃくがあり、半額シールが貼ってある。
「おでん作るわけでもないのに、これ、どうやって食えって言うんだよ。」
と言うと池内忍は「食べなくても他にも使い道あるでしょー、とっとと買いなさーい。」
とか言ってくる。
いや、ないない。
その近くにふじっ子のお豆さんが20円引きの安売りをしていたので、それを買い物かごに入れて、
「これで我慢しろ。」と言ってやった。
「まったく、役立たずの人間ね!」
そう言って池内忍は眉をひそめた。
その冷蔵食品の棚の向こうのほうに蒲鉾を売っているコーナーがある。
それを、池内剣が茫然と少し顔を上気させながらながめている。
池内剣の視線の先には「りらっクマ」の蒲鉾が置いてあった。
蒲鉾を薄く切ると、その断面がりらっクマの顔になってるやつだ。
「買ってやろうか?」と言うと、池内剣ははっと我に返り「いらんわい!」と叫んだ。
「あ、そう」私がそう言いながらその場を離れると、池内剣は少し残念そうに視線をしたに向けた。
青果売り場の横を抜けてレジに進むと、池内忍が声をあげた。
「あきひめよ!奈良のあきひめが売っているわ!これは事件よ!」
そう言いながら私の後頭部の毛を思いっきり引っ張った。
「いてて」ちょっと口から言葉がついて出た。
周囲の人たちが私に視線を向ける。
当然、池内系の姿は私にしか見えていない。
「あー、足がちょっと吊っちゃったなあ。」とわざとらしく説明口調で言いながら、
私は少し肩をすくめてイチゴ売り場に移動した。
奈良産のあきひめが売っていた。
池内忍の大好物である。
イチゴの棚はもうほとんどカラだった。
よく売れている。値段も298円と手ごろだったので、3パック買って帰ることにした。
「やったわ!最後に正義は勝つのよ!これこそセレブの勝利にふさわしいわ。」
そう言いながら池内忍は勝ち誇ったかのように胸を張った。
暇をもてあましたのと、久しぶりのスーパーなので、池内慶は私から離れ、
両手をいっぱい左右に伸ばし「キーン!」と叫びながらスーパーを走り回っていた。
タダ一人、剣だけはすこしうつむき加減で元気がなかった。
自分だけ何も買ってもらえなかったことがさびしかったんだろう。
私は蒲鉾売り場に行って買い物かごにりらっクマの蒲鉾を入れた。
「あっ!」池内剣がみじかく声をあげた。
「明日の朝ご飯で一緒に食べような。」私がそう言うと、
池内剣は「いや、そのオレは別にあの・・・・」と言葉を詰まらせたあと、
少し顔をあからめ、うつむきながら「・・・・ありがとう。」と言った。
「こいつう、かわいいなあ!」そう言って私がおもわず剣の頭をなでる。
それを見ていた池内忍が奇声をあげた。
「あーっ!一人だけ頭をなでられてる!インチキよ!サギよ!これはクマクマサギだわ!」
そう言うと、池内忍はお菓子売り場のキャラメルコーンの処に行くと、
キャラメルコーンの真ん中の丸いところを電話のダイヤルに見立てて、回すしぐさをし始めた。
最近の電話は全部プッシュフォンだからダイアル式の電話なんてないだろ。
本当にこいつらは昭和をひきずってるなと思った。
「あ、もしもし、警察ですか!今、クマクマサギを発見してました!すぐに逮捕してください!」
池内忍はキャラメルコーンの袋に向かってそういうと、「ガチャ!」と口で言いながら、
電話を切るしぐさをした。
まあ、それでお前が気がすむならそれでいいけどな。
私はと言うと、自分用にまるちゃんのインスタントカレーうどん、甘辛味と
いかなごを乾燥して作ってある「かなぎちりめん」を買っていった。
レジで会計を済ませていると、
店中、飛行機のマネをして走りまわていた池内慶が帰ってきた。
今日は、めずらしく三人とも笑ってご機嫌で店を出た。
久しぶりのスーパーでの買い物だった。
PR
お父さんと子供達の図に見えてきました(笑)
剣ちゃんみたいな子は
こちらがちゃんと思いやってあげないと
だめなんですね。
リラっクマを見たら剣ちゃんを思い出しそう(^^)
人を束縛するのも、束縛されるのも嫌い。
精霊って、割と健全な心の持ち主なんですね。