母親に頼まれて買い物に行った。
まずは油揚げ。
「男前豆腐店の油揚げがないよ!」
慶ちゃんが叫んだ。
いつもは男前豆腐店の油揚げを買ってたんだけど、もうおいてないようだ。
だって、あれは大きすぎて邪魔になるし、最近の核家族の家庭では1日であの量は
食べきれないからね。
それで、敬遠されてなくなっちゃったんだろう。
おいしいのに。
そういえば、昔、姫太郎うどんっておいしいうどんがおいてあったけど、
無くなってしまった。
市場環境って厳しい。
しかたがないので、もうちょっと小さな厚揚げを買った。
「今日はどんなものを買ってもらえるのかな~たのしみだな~」
慶ちゃんがカゴの中でにこにこしながら飛び跳ねている。
次に、新タマネギを二個買う。
これが甘くて味噌汁にするとおいしいんだ。
次は、かにかまぼこっと。
慶ちゃん「……」
それから三度豆ね。
「いいかげんにしろよこらーっ!」
慶ちゃんが怒った。
「しかたないだろ、お使いなんだから」
「でも、ぱぱしゃんはいつもお菓子ばっかり買ってくれるよ、生で食べられないタマネギとか豆とか
買わないよ!」
「そりゃ、おかずをつくらないからだよ。家庭の主婦はおかずをつくらないといけないから、
野菜とかおかずになるものを買うのはあたりまえだろ。」
「でも君は主婦じゃないじゃん!」
「いや、今日はお使いなんだって」
「ぷー!」
慶ちゃんは頬をふくらませた。
しかたがないので、何かやすくて慶ちゃんたちへのお供物になるものを探す。
すると、お菓子売り場に売れ残りのお菓子が半額のブルーケースに入れてあった。
その中に二つの液体を混ぜて練ると生キャラメルになるという「ねりキャラ」というものが
入っていた。ものすごううすっぺらい袋に入っている。
とても子供だましくさいお菓子だった。こりゃ売れ残るわ、と思ってみていると
慶ちゃんがそれに目をつけた。
『これ、すごいよね!これ、きっと買ってくれるよね!やさしいから買ってくれるよね」
目を輝かして慶ちゃんが言う。
「ほしいの?」
私がたずねると慶ちゃんは一生懸命首を縦にブンブン振った。
その仕草がかわいいので買ってあげた。
「私のは!」
剣ちゃんが出てきて叫ぶ。
その箱の中をみるとリラックマプリッツが入っていた。懐かしいな、昔はよく剣ちゃんに買ってあげてた。
リラックマプリッツは60円でとてもお買い得で剣ちゃんを満足させられる。
それが半額なので30円だ。剣ちゃんはかわいいのが好きなので、30円でも満足してくれる。
そこに忍ちゃんが出てきて私をやぶにらみする。
「私はそんな子供ダマシにはだまされないわよ」
「はいはい」私はそう言って半額お菓子売り場をあとにした。
パン売り場にレーズンの入ったフランスパンがあったのでそれをカゴに入れる。
忍ちゃんフランスが好きそうだし、100円でリーズナブルだけど納得してくれるだろう。
「はい、レーズンフランスパンね」
私がそう言うと忍ちゃんの眉間にしわがよる。
「なにそれ、馬鹿にしてるの?」
「は?」
わけがわからず私は忍ちゃんを見る。
「これはフランスパンじゃないわ、
パン・トラディスィヨネルじゃない!」
知らんがな。
そこに慶ちゃんが割ってはいる。
「それくらい許してあげなよ、慶タンだって、日本人がボロネーゼをナポリタンスパゲティーって
呼んでることを我慢してあげてるんだよっ!」
なんかまるでイタリア人にでもなったような口ぶりだな。外見みてもイタリアの片鱗もないのに。
てか、ボロネーゼとナポリタンは別の食べ物だよ。
「まったくしょうがないわね、今回だけは許してあげるわ」
忍ちゃんは上から目線でそう言った。
「ねえねえ、ここに森のキリカブっておいしそうなパンがあるよ、これかわないの?」
慶ちゃんが回りくどく催促してくる。
でも、ここで買ったらほかの二柱にも何か買ってあげないといけないので、
「買わない!」と断固として拒否した。
すると慶ちゃんはショボーンとした。
慶ちゃんはこういうとき駄々をこねないので、あまり厳しいことをいうと可哀想になることがある。
その時である。
「ちょっとこっちに来なさい!事件よ!」
忍ちゃんが血相をかえて私に呼びかける。
何事かと思って忍ちゃんについていくと、
キリィクリームチーズが198円で売っていた。
いつもは2380円である。
「買うわよね」
忍ちゃんが断定的に言う。
「買わない」
私は断定的に言い返す。
「そんなことが許されると思っているの!フランスの外交力を侮らないほうがよくってよ」
「うるせ」
私は少し語気をあらげて言った。
「ぬぬぬぬぬう」
忍ちゃんは歯を食いしばって買い物かごの中に入っていった。
どうせ、何もできないのだ。
「大変だよ!」
次は慶ちゃんが叫んだ。
「もう、なんだよ」
「忍ちゃんが思い詰めてカゴの中で切腹してるよ!このままじゃ大変なことになるよ!ほら、
お腹からフランスパンがはみ出してるよ!」
見てみると、忍ちゃんがお腹にレーズンフランスパンを突き立てて切腹のマネをしている。
「おまえ、日本文化馬鹿にしてんのか」
「大変だよ!このままだとフランスパンが全部お腹から出ちゃうよ!」
叫びながら慶ちゃんが走り回る。
忍ちゃんは
「ぬぬぬぬぬ」とうめぎながら切腹のまねごとをつづけている。
なんという連係プレイ。
「ああ、もう、わかったわかった、チーズ買えばいいんだろ」
私はそう言って、キリィクリームチーズと北海道クリームチーズを一つずつカゴに入れた。
キリィは忍ちゃんがもらい、北海道は剣ちゃんが貰った。そして、
慶ちゃんにはキリカブパンを買ってあげた。
いつもながらこの子たちには甘いなあ。
家に帰ると、慶ちゃんは早速ねりキャラをやってほしいと私にねだってきた。
袋をあけると白いラード状のクリームとメイプルシロップみたいなシロップとプラスチック容器とプラスチックスプーンが
入っていた。そのプラスチック容器に二種類のクリームを入れてかき混ぜる。
しばらくかき混ぜていると、白と茶色がまざって、ちょうどキャラメルみたいな色になった。
練っている最中、慶ちゃんは「ねりねり、ねりねり」と言いながらくるくる回って楽しそうに踊っていた。
まあ、この踊りが見られただけでも眼福だな。
一口食べてみると、普通の生キャラメルの味だった。
量はキャラメル二個分くらいかなあ、普通に食べる目的ならふつうのキャラメルを買ったほうが
経済効率は良さそうだ。
これは、混ぜて楽しむための食玩みたいなもんだな、と思った。
PR