「sos!SOS!そらそらよーんでいるよー、今日もまた誰ーかーチーズのピンチー!」
家の冷蔵庫の前で慶ちゃんが踊りながら歌っている。
「何してんの」
「もうクリームチーズが底をつきかけてるんだよ!もうクリームチーズが無くなっちゃうよ!
補給しなきゃ!」
なんか、すでに家にクリームチーズがあることが当たり前と思っているらしい。
しかたないのでスーパーにクリームチーズを買いに行く。
最初はお決まりのイチゴコーナー。
今日は章姫が売ってたので、忍ちゃんが私の顔を凝視する。
「わかってるわね、あきひめよ」
「はいはい」
章姫を買い物カゴに入れた。
「はい、これ私のね」
忍ちゃんがタッチした。
そのあと、カニカマボコを買う。
「カニカマボコいらんよ!もっと慶タンの好きなもの入れてよ!」
慶ちゃんが文句を言う。
贅沢になったものだ。昔はカニカマボコでも喜んでもらっていたのに。
次に三度豆を買う。
「はいはい、三度豆ね甘くておいしい三度豆って、このまま食えるかー!」
慶ちゃんが次は乗りツッコミをする。芸が細かい。
でもおかずも買っておかなきゃね。栄養が偏るから。
しかたないので、次、ぼんち揚げを買ってあげる。
「やったー!慶タンの!」
喜んでぼんち揚げに慶ちゃんがタッチした。
そのあと、父が焼き八つ橋がおいしいから買ってきてほしいと言っていたことを思い出す。
八つ橋を買い物カゴに入れた。
「わーい、剣ちゃん八つ橋だー!」
剣ちゃんが八つ橋に手を触れようとしたとき忍ちゃんの鋭い声が飛ぶ。
「お待ちやす、錦屋の娘であるウチに内緒で店のもんに手を付けるとはどうゆう了見どすか、小番頭はん」
「え……」
剣ちゃんは唖然とする。
「だ、だって、忍ちゃんは一番いいいちごを貰ったでしょ、次に慶ちゃんがぼんち揚げをもらったから、
次は剣ちゃんの順番だよ」
「まったく、あんさんは十年も西陣に奉公しとってまだ織物問屋の仕来たりが分かってないのやな、
店の大旦那の娘であるウチがアカンと言うたらアカンのや」
忍ちゃんがそう言うとその前に慶ちゃんが飛び出してくる。
「待っておくれやす、こいはん、それではあまりにも小番頭はんがかわいそうや、
例え西陣の仕来たりとは言え、これは道理にかなわんのとちがいますやろか」
「お黙りやす、大番頭はん、あんた錦屋ののれんに泥を塗るつもりどすか」
……なんかワケのかわらない小芝居が延々と続いている。
めんどくさいのでもう一個、八つ橋をカゴに入れた。
「はい、これ忍ちゃんのね、これでケンカしないでね」
「何やってんのよ!せっかく良い所だったのに!松竹新喜劇の藤山寛美が草葉の陰で泣いているわよ!」
忍ちゃんが激怒した。
お菓子買ってやってんのに、何おこってんの、忍ちゃん。
意味がわからん。
その後パン売り場を通る。
「ほらほら、忍ちゃんの好きなイチゴのジャムパンがあるよ!上品だよ!」
慶ちゃんが指を指すが忍ちゃんはそっぽを向く。
「しらない」
「じゃあ私がもらうね」
ジャムパンをカゴに入れると剣ちゃんがそれにタッチした。
「ねえねえチーズ忘れてるよ!今日の目的はチーズだよ!今日もまた誰か乙女のミンチだよ!」
慶ちゃんが叫ぶのでしかたなくチーズ売り場に行く。
「忍ちゃんの好きなクリームチーズ買ってやろうか」
私が声をかけるが、忍ちゃんはそっぽを向く。
「ふん」
さすがにエラそうでだったので、ちょっと腹がたって私は忍ちゃんの好きなクリームチーズを
慶ちゃんの前に落とした。
「はい、これ慶ちゃんにあげる」
「えー慶タンにくれるの!くれるの!」
喜んで慶ちゃんはクリームチーズにタッチするが、その後ハッと我に返り、
忍ちゃんを見る。
「あのー忍ちゃん、クリームチーズあげようか」
「いらないわよ、そんなの」
忍ちゃんはそっぽを向いてしまう。
慶ちゃんと剣ちゃんは顔を見合わせシューンとしてしまう。
せっかくチーズを買ってやったのに、ちょっと白けてしまって
私は天津甘栗お徳用パックを買い物カゴに入れてそのままレジに向かった。
「あ!天津甘栗だー!」
叫びながら慶ちゃんが甘栗に走り寄るが、その慶ちゃんの服の袖を剣ちゃんが引っ張る。
慶ちゃんは剣ちゃんを見る。
剣ちゃんは慶ちゃんに耳打ちする。慶ちゃんがうなづく。
慶ちゃんと剣ちゃんは二柱で天津甘栗お得用パックを持つと、忍ちゃんの前に差し出す。
「はい!前は慶タンが一柱だけ多めに貰って、その前は剣ちゃんがもらったから、今日は
忍ちゃんの番だよ!」
「いらないわよ、そんなの」
忍ちゃんはそっぽを向く。
「それはだめです!順番だから決まりです!」
剣ちゃんが叫んだ。
「チッ」
忍ちゃんは眉をひそめて舌打ちをする。
「決まりならしょうがないわね。別に欲しくもないけど、あなたたちのために貰っておいてやるわ」
「ありがとー!」
慶ちゃんと剣ちゃんは頭をさげてお礼を言った。
その後、忍ちゃんを真ん中にして、右を慶ちゃん左を剣ちゃんが手をつないで仲良く三柱ならんで
手を振ってあるきました。
慶ちゃんも剣ちゃんも笑っている。
忍ちゃんはちょっと顔が上気して赤くなっていた。
恥ずかしそうだけど
実はまんざらでもなさそうだった。
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