ひさしぶりに父とスーパーに行く。
「お久しぶりぶりっこ!」
慶ちゃんが叫んだ。
スーパーにつくと慶ちゃんは懐から龍をとりだし、
忍ちゃんや剣ちゃんと一緒に乗る。
テンションがあがりすぎて、上下にふわふわさせて飛んでいると、
スーパーの天井にガンガン頭があたっている。
それでも平気。
最初にイチゴ売り場に行くと、章姫が398円で売っていた。
「章姫よ!」忍ちゃんが声をあげる。
それを父はカゴに入れる。
「早く龍をもどしなさい!」
忍ちゃんが叫び、慶ちゃんが龍を運転して買い物カゴまでもどると、忍ちゃんは素早く
カゴまでもどって章姫にタッチする。
「もらいっ!」
慶ちゃんも剣ちゃんもいつものコースだとトマトやお豆さんを貰えるので平然としている。
でも、今日は父はおまめさんやミニトマトを素通りした。
「話がちがうよーっ!」
慶ちゃんが叫んだ。
別に誰も約束とかしてないんだけどね。
どうやら、ここのスーパーに行くまえに大蔵海岸のディスカウントストアで買い物をしてきたらしく、
ここで買い物をするものはあんまりないらしい。
「乙女のピンチね!」
忍ちゃんが親指の爪をかみながらつぶやいた。
そのあと、店のコーナーに狐どん兵衛が98円で売っていた。
いつもは145円くらいで高いので、赤いきつねを買っているのだが、今日は割引している。
すかさず父はこれを2個かった。
「あんたら、これで我慢しときなさい」
忍ちゃんが冷たくあしらうように言った。
「どん兵衛はいやだよー!」
慶ちゃんが叫びながら2個のどん兵衛を太鼓のように叩いた。
「ぼぼんがぼん!ぼぼんがぼん!」
剣ちゃんが合いの手を入れる。
そのあと、父はチーズコーナーに行く。いつも私が慶ちゃんたちのためにチーズを
買っているのをしっていて、それをカゴに入れる。慶ちゃんたちに買っていることは
父はしらないが、私がいつも買っているので、私の好物だと思っているらしい。
内容は裂けるチーズ、ホロホロチーズ、クリームチーズである。
それで、一応、慶ちゃんたちは落ち着いた。
それでも、忍ちゃんだけイチゴを貰って慶ちゃんと剣ちゃんは不満顔である。
「忍ちゃんだけずるいよ!」慶ちゃんが怒る。
「格差社会だよ!」剣ちゃんが怒る。
「あきらめなさい、これも貴族の気品のなせる業なのよ」
とか忍ちゃんが言っている。別に忍ちゃんが貴族だとか聞いたことないけど。
そのあと、父は焼き八つ橋を買う。
「剣ちゃんがもーらいっと!」
躊躇なく剣ちゃんが八つ橋にタッチする。
「何をしてはるんどす、小番頭はん、それはうちの八つ橋どすえ!」
忍ちゃんが怒る。
「だって、順番じゃん、忍ちゃん一番いいイチゴとってるじゃん。それでなっとくしなよ」
醒めた表情で剣ちゃんがいう。
「あ、あのねあなた、ちゃんと芝居しなさいよ、素で言われたら私が悪いみたいじゃない」
「わるいよ」
忍ちゃんの言葉に剣ちゃんが即答する。
「まっておくれやす!ここはこの大番頭の慶左衛門に下駄を預けておくれやすっ!」
叫びながら慶ちゃんが中に入った。
「つまんなーい、もうおしばいやらない」
忍ちゃんはそっぽを向いた。
「私悪くないもん」
剣ちゃんもそっぽを向いた。
次に、父はぼんち揚げをカゴに入れる。
「やったー!慶タンのだ!」
そう言って慶ちゃんがぼんち揚げにタッチする。
これで、一応、Ⅲ中ともチーズとおやつ、お菓子を平等にもらったことになる。
そのあと、ノリ弁当と筍のお惣菜を一つずつカゴにいれて、ノリ弁当は慶ちゃんがもらい、
お惣菜は剣ちゃんがもらった。そのあと、父は栗のお徳用パックを買い物カゴに入れる。
通常の3倍の大きさのあるパックだ。
「あら、久々に大物ね、だれがもらうのかしら、栗だから慶ちゃんかしら」
そう言って忍ちゃんは慶ちゃんを見る。
「順番だから忍ちゃんがもらいなよ」
慶ちゃんが言う。
「えーでも、私イチゴもらってるから……」
そういいながら忍ちゃんはばつがわるそうな表情で剣ちゃんを見る。
「いいうよ、順番だし」
剣ちゃんがいった。
「そう、わるいわねえ」
そう言って忍ちゃんが栗をもらった。
そのあと、スルメを慶ちゃんがもらい、
枝豆を忍ちゃんがもらった。
「剣ちゃん、剣ちゃんももらわなくていいの?」
慶ちゃんが聞く。
「お父さんはいつも最後にお菓子売り場に行ってかわいいお菓子を買うから、
それをもらうの」
剣ちゃんは言った。
剣ちゃんの言うとおり、父は最後にお菓子売り場に行ったが、今日はお菓子を
かわなかった。
『ガーン!」
剣ちゃんはショックを受ける。
「ご愁傷様だね、剣ちゃん」
慶ちゃんが剣ちゃんの背中をさする。
「いいもん!今日は剣ちゃんがこの人の背中を独占するもん!」
そう言って剣ちゃんが私の背中にしがみつく。
人の肩甲骨の間、首筋から背中にかけての場所は、霊が憑依しやすい場所で
霊にとっては特等席なのだ。
「あー剣ちゃんずるいー!」
慶ちゃんお気に入りの場所なので慶ちゃんがふくれる。
「今日は私のものだもんねー!」
そういいながら剣ちゃん私の背中でレバーを操作するマネをする。
「行け!ジャイアントロボ!」
またえらく古いの出してきたな。
「すすめージャイアントロボー!たてージャイアントロボー!」
剣ちゃんは私の背中につかまって楽しそうだ。
地下のスーパーから地上にあがると、父は薬局に入って、お菓子売り場をまわった。
「やった!私もお菓子を買ってもらえるよ!」
剣ちゃんは目を輝かした。でも、今日は父はお菓子を買わなかった。
「しゅーん」
剣ちゃんはがっかりした。
そのあと、自転車で家に帰ることにしたのだが、慶ちゃんは私の自転車の前かごに乗り、
車のハンドルを運転するようなしぐさをした。
「慶ちゃん、車ゴッコなの?」
私が聞くと慶ちゃんは首を横に振った。
「違うよ、ザブングルだよ!」
慶ちゃんは言った。
「ハヤテのよおにー、ザブングルーザブングルー!」ご機嫌で歌いながら運転ゴッコをしている。
剣ちゃんはちょっと不機嫌だけど私の背中が独占できる機会はあまりないので、
私にあまえて背中に抱きつき、頬を背筋にスリスリ寄せて来た。
ゾクゾクっと背筋が寒くなる。
霊が憑依するとこういう感覚は起こるものなので、別に気にはしないけど。
忍ちゃんは私の背中にしがみついて、ちょっとむすっとしていた。
いつもの光景だ。
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