今年もおしせまったこの時期、
私は今日もコツコツと仕事の合間をぬって小説を書いている。
ああ、小説一本で食っていけたらなあ、空想の世界をつづって、
それで生活していけたらどんなに楽しいだろう。
私の夢だ。
しかし、そんなときにかぎって、お呼びがかかる。
「至急、生き霊となってこの地に赴くべし!」
頭の中で智伯の声がした。
いいかげんにしろよ、小説を書くのがかなりのってきているのに。
かと思う間に私の意識は薄れ、パソコンの前で眠ってしまった。
夜中の冷えた街並み。
電柱の青白い電灯がアスファルトを照らしている。
そこをゆっくりと黒い西洋の喪服を着た少女が歩いてゆく。
その時、天から白い衣を着て頭の上に光の輪をつけ白い大きな翼をもった天使たちが
何人も舞い降りてきた。そして少女の前方を塞ぐ。
私とともに呼び寄せられた池内慶、池内剣、池内忍もその場に降り立った。
みんな、一体何が起こったのか理解できずその場に呆然と立ち尽くしていた。
「止まりなさい、池下滅!これ以上前に進むことを禁じます。」
天使の一人が叫ぶ。
少女はそれを無視してそのまま前に進む。
そして、天使たちの前までくるとサッと右手で払うようなしぐさをした。
すると、たちまち竜巻が起きて天使たちを吹き飛ばしていった。
天使たちは自分たちの素性を名乗らなかった。何か交換条件も出さなかった。
こいつ、本物の天使を吹き飛ばしやがった。
しかし、待てよ、池下滅とかって名前で呼ばれてたなこいつ、もしかして私の潜在意識の
根底か、こいつ。おい、神様の眷属相手になにやってんだこいつ、カンベンしてくれ。
吹き飛ばされた天使たちの向こうには智伯と花藤子が立っていた。
「させるかー!」その少女の後ろから松岡覇が大ハンマーを振り下ろす。
池下滅は前を向いたままそのハンマーをピンと指ではじくと、松岡覇はそのまま
猛スピードで吹き飛ばされた。それを松岡良はが空中にジャンプして受け止める。
そして着地して松岡覇を見た。松岡覇は体に直接打撃をうけたわけではなく、
ハンマーを指ではじかれたのだが、そのときに起きた風圧で気絶していた。
「よくも!」あとから到着した松岡炎が叫び、松岡狼とともに戦闘態勢をとるが、それを松岡良が止める。
「まて!あなたたちが勝てる相手ではないわ、帰りましょう。」
松岡良はそう言うが松岡炎は気持ちが収まらないようで
「松岡覇をこんなにされて引き下がれないわよ!」と反論した。
すると松岡良は無表情に抑揚のない声で言った。
「松岡覇だから気絶ですんだ。あなたが行けば必ず殺される。」
「どうしても行くと言うなら、かわいそうだから私がここで殺してあげる。」
その言葉を聞いて松岡炎はしゅんとうなだれた。
「さあ、帰りましょう」そう言って松岡良は松岡系の仲間を引き連れて帰っていった。
池下滅はまっすぐ歩いてゆく。
「止まりなさい!止まらなければあなたを撃つ!」手に弓と矢をもった花藤子が厳しく言い放った。
池下滅は視線を下におとしたまま、つぶやくように何か話し始めた。
「なぜそいつをかばう、連続殺人犯の弁護士を。」
すると智伯が答えた。
「殺人は悪!なれど罪深き人を諭し、善の道に戻そうとしたる弁護士は善!その弁護士を
祟り呪い殺そうとするそなたは、すなあち悪じゃ!」
その言葉を聞いて池下滅の口元に薄ら笑いが浮かんだ。
「善とな?自分は殺されてもいいから子供だけは殺さないでと懇願した母親の
子供を笑いながら母親の目の前で殺した殺人犯に、あの弁護士は、
「子供がかわいいから子供の首にリボンを結んだら死んじゃった。」
と言えと入れ知恵したんだぞ。それと殺した子供を押入れに入れたら
魔法の国の妖精がやってきて子供を生き返らせてくれる」と言えとも入れ知恵した、
明らかに精神障害による無罪を狙った法廷戦術じゃないか。それが善?」
池下滅はゆっくりと顔をあげて智伯を見た。その目には嘲笑と侮蔑の色がにじんでいた。
「されど、その罪は罪人が償うべきもの!弁護士には罪はない!それ以上前に進むな!
進めば撃つ!」そう言って智伯は両手を開いた。
その両手の指の間から黄色の札に赤い字が書いた霊札が現れる。
「この札はそなたの心の中にある私利私欲、欺瞞を打ち砕く聖なる札ぞ。」
智伯はそう言ったが池下滅は薄ら笑を浮かべながら無視して前に進んだ。
智伯は霊札を放った。
それと同時に花藤子も弓に破魔矢をつがえた。
「そなたの中の私利私欲の心を砕いて浄化させる!うけてみよ!!!」
そう言いながら花藤子は破魔矢を放った。
霊札と破魔矢は同時に池下滅に当たったが、霊札はパサッと音をたててそのまま
地面に落ちた。破魔矢も池下滅の体にポンと当たって、カランと音を立てながら地面に落ちた。
こいつの心の中には私欲も虚飾も虚栄心も偽善もない。だから破壊することはできなのだ。
智伯も花藤子も唖然とした。
池下滅が目指す方向、そこには煌びやかな人権弁護士の豪邸があった。
その門の前に先に現れた天使たちより一層体の大きな天使たちが何人も舞い降りて
立ちはだかった。
その姿は透けていて私にはよく見えない。
大天使だ・・・・・・私が見ることのできる霊域は貴人の霊から神の眷属霊辺りまで。
うっすらとその姿が見えるということは、その霊域のクラスでは最高レベル。
池下滅は人権弁護士の豪邸を見上げた。
「豪勢だねえ、さすが、非道な弁護で民衆を怒らせ、怒った一般市民たちが弁護士懲戒請求を行った
ところで反対に営業妨害と人権侵害で弁護士懲戒請求を呼び掛けた人たちを、
片っ端から訴えて、たんまり賠償金をまきあげた金持ちだけのことはある。最初から
この金が目当てでわざと非道な弁護をしたんだろ、あたまがいいねえ。」
そうつぶやきながら、池下滅はまっすぐに弁護士の家に向かって歩いて行く。
ちょっと待て、こいつは、私の潜在意識じゃないのか?
池下滅がどんなに激しい義憤をもっていようと、しょせん大天使に勝てるわけがない。
ってことは、私はこいつの巻き添えで、ここで灰になって死ぬのか?
もし、死なないにしても、大天使の手までわずらわせることになったら、私自身も
どんな責任追及されるか分かったもんじゃない。
冗談じゃない!私は、今やっと小説家になれるかもしれない夢をかなえようとしているんだ。
無残に殺された罪のない親子?!そんなの、他人ごとじゃないか。
この世界で、どれだけの人たちが無意味に、何の罪もなく殺されてるんだ?
巻き添えなんてまっぴらなんだよ!
「いいがげんにしろ!人の事なんて知ったことか!俺は、自分が幸せになりたいんだ!
そのためなら、他人だって見殺しにする、悪い連中だって見て見ぬふりをする!
俺は自分が一番かわいいんだよ!」
私は、本能的に叫んでしまった。
霊の世界は感情がストレートに出る。思ったことがすぐに口に出る。
内面をさらけだしてしまう。
心にもない建前で美辞麗句を言ってその場を取り繕ういとまなどないのだ。
私がそうさけぶと、池下滅の体に地中から真っ黒な人型が何人も湧き出してきて
しがみついてきた。
「やめろお、俺は成功したんだー、そのためには黙っていろー」
「何もいうなー見て見ぬふりをしろー。」
そのスキを見て池内慶がブブブッ!と植物の種を吐きだした。
それは池下滅の体に刺さって芽を出した。
芽をだした植物は育ち花をさかせた。
菊の花だった。
菊の花と線香のにおいが周囲に立ちこめる。
人々のすすり泣く声が聞こえる。
「うわああっつ」その波動をうけた池内慶は目からボロボロと涙を
流して両手で顔を覆い、その場に座り込んでしまった。
「精神攻撃だ!気をつけろ!」叫びながら池内剣が火を吹いて、
菊の花を燃やしつくした。
すると池内剣の頭の中に葬儀の火葬場の風景が浮かんできた。
「うわあっつ」叫んで池内剣はその場にひざをついた。
「おい!池内忍!おまえも戦えよ!」
私は怒鳴ったが池内忍は「何で私が人のために戦わなきゃいけないのよ、ふざけないでよ!」
と怒鳴り返した。
池下滅が自分の体にまとわりついた黒い影に手を振り下ろすと、それは霧のように消えた。
しかし、それは次から次へと湧き出してくる。
「有名になりたい」「ちやほやされたい」「裕福になりたい」を呻きながら黒い影がいくつも
わいてきて池下滅にしがみつく。
「チイッ!」池下滅は舌打ちをする。
「智伯、今よ!あの邪悪な私欲とともに池下滅を破壊しなさい!」
花藤子が叫ぶ。
しかし、智伯は顔面を蒼白にして手が震えていた。
やっと右手から3枚ほど霊札を出したがそれを投げることができない。
「あやつの心には私心がない、私欲がない、その者を破壊しようとする我はいったい何なのだ。
滅ぶべきは我ではないのか・・・・・」
そういいながら智伯は霊札を自分頭に打ち込もうとした。
「やめろ!」私はとっさに智伯に走りよって突き飛ばした。
はずみで霊札の一番が私の右手をかすった。
ジュッ!と音がして肉の焦げる匂いがした。
私だって聖人君主じゃない。邪悪な心ももっているんだということを再認識した。
私の腕が少しだけヤケドしたのをみて智伯は我にかえり、少し涙目になった。
「もうしわけない、我がふがいなきばかりに。」
私は少し苦笑いをした「いや、俺の心に私利私欲があるから焦げたんですよ。」
池下滅は私のほうに手のひらを向けた。
「この私利私欲はお前の心。お前を殺せば、私をさまたげるものもなくなる!」
私を殺す気だ。
「止めろ!おまえは俺の純粋な心の部分なんだぞ!俺を殺せばお前も死ぬ!」
しかし池下滅は手をとめない「かまわない、悪を滅ぼすためなら、私は死んでもかまわない。」
そのとき、とっさに池内忍が走りだした。そして池下滅の横にころがっていた破魔矢をつかんで
花藤子に投げた。
「小癪な!」私に向けようとした手を池下滅は池内忍に向けた。
池内忍はすんでのところでそれを避けて水札を両手の指の間から大量に出して
盾を作って身をまもった。しかし、それでも池下滅の竜巻の風にとばされて
遠くまで飛んでいってしまた。
「魔導退散!」叫びながら花藤子は素早く弓に矢をつがえ、池下滅に破魔矢を放った。
その矢は私の邪悪な私利私欲の黒い影を貫き、同時に池下滅の体を貫いた。
「ゲホッツ」池下滅は真っ黒な血を吐いた。
それでも、池下滅は歩みを止めなかった。
「なぜだ・・・・・・なぜ弱き庶民を踏みにじる者が栄えるのだ。」
「正しき事を言う者は権力の鉄槌によって踏みつぶされ、
凶者を擁護するものは、益々豊かになる。」
よろめく足取りで自分の目の前に立ちふさがる大天使をにらみつける池下滅。
大天使たちはみんな泣いていた。
「何・・・・・泣いてんだよ・・・・笑え、お前たちが守るものがますます巨大となり、
民衆をあざけり、金をばらまいて豪遊する姿を見て笑え・・・・
そして、それに抵抗するものが血反吐を吐いて死んでゆく姿を見て笑え・・・・・。」
池下滅は大天使のところまで行くと真っ黒な血のついた手で大天使の服をつかんだ。
「笑え・・・・・。」
そう言って、池下滅はニンマリと笑い、倒れた。
そして、2度と起き上がることはなかった。
まったく・・・・・とんだ年末だ。
追伸
テレビでは発言できなかったウイグル暴動の真実(青山繁晴)
という動画を見て、気分的に落ち込んでいるときに書いたエントリーです。
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講演会ではテレビと違って時間があるので、必ず「希望」の話もなさいます。テレビでは時間がないので絶望的な事実しかお話になる時間がないのです。
mixiにも講演会情報が載っているので、青山さんの「希望」の方の話も聞いてみてください。
私もこの国の無策によって、セーフティーネットからこぼれ落ちた人間なので絶望を感じることはあります。けれど青山さんの人柄や「希望」の話に触れると、さあっと冷たい清い水を浴びたようになり、「希望」を信じようという気持ちに変わるのです。
もしよかったらいつか青山繁晴さんの講演会に行ってみてください。