父と一緒にスーパーマーケットに行く。
と、言っても大して買うものもなかった。
お金もあんまりないし。
「なんかほしいものある?」
父が私に問うた。
「なんかほしいものある?」
私は精霊たちに問うた。
「裂けるチーズ!」
慶ちゃんが叫んだのでチーズ売り場に行く。
すると、「おなかがすいーたおなががすいーた」というような軽快な音楽が
冷蔵食品売り場から流れてくる。それにあわせて慶ちゃんと剣ちゃんは踊り出した。
そのスキに忍ちゃんがカッテージチーズを指さす。
「これがほしい」
私はカッテージチーズをカゴに入れた。
348円けっこう高かった。
雪印のだった。
雪印北海道100と書いてある。
それを見て慶ちゃんが「ほっかいどー!」と叫んだ。
次に剣ちゃんが「でっかいどー!」と叫んだ。
つぎに忍ちゃんが「ほっかいどーはでっかいどー!」と叫んだ。
驚いて慶ちゃんと剣ちゃんが忍ちゃんを見る。
「な、なによ、私だってたまには乗るわよ」そういいながら忍ちゃんが
少し顔をあからめてそっぽを向いた。
そのあと、父がいつもどおり、マシュマロをカゴに入れる。
「あら、マシュマロだから私のね」
そう言って忍ちゃんがマシュマロにタッチしそうになる。
その前に慶ちゃんが立ちはだかる。
「だめだよ!三柱順番だから、このお供物は慶ちゃんか剣ちゃんがもらわなければだめなんだよ!」
「何言ってるの!マシュマロは私のお気に入りじゃない!」
忍ちゃんが怒る。
「じゃあ、チーズと交換してくれる?」
剣ちゃんがたずねる。
「いいわよ」
忍ちゃんがそう言うので、マシュマロはいったん剣ちゃんがもらって、それをカッテージチーズと
交換した。
「やったー!高いのもらったー!」
剣ちゃんが喜んでいた。
次に父は八つ橋をカゴに入れた。
「やったー八つ橋どすー!」
慶ちゃんが八つ橋をもらって喜ぶ。
次に、父が「ぼんちあげがスキなんだろ?買うか?」と聞いてきた。
「いや、太るからやめとくよ」と私は言った。
それを聞いて慶ちゃんは目を丸くする。
「ぼんちあげかわないの?サムネバンバイなの?」
興奮しすぎて何を言ってるのかわからない。
私はかわりにヘルシーな無添加焼き空豆を買った。殻付きのやつ。
「こんなのいらないやい!」
慶ちゃんが怒ってそっぽを向いた。
次に私はスルメをカゴに入れる。
「スルメだれかいる?」そう言って慶ちゃんが周囲を見回す。
忍ちゃんも剣ちゃんもスルメはいらないみたいでそっぽをむく。
「じゃあ、慶ちゃんがもらうね、スルメ大好きだもん!」
そう言って慶ちゃんがスルメをもらった。
「そろそろ帰るか、他に何か欲しいものあるか?」
父がそう言うので、私は周囲を見回し、カルビーのベジップスをカゴに入れる。
ちょうど剣ちゃんの目の前にそれが落ちる。剣ちゃんはベジップスが好物なので喜んでタッチする。
そのまま父はカゴをもってレジへ。
「ちょっとまって、私だけお供物が一つすくないわよ」
むっとした顔で忍ちゃんが言う。
「忍ちゃんには無添加空豆があるじゃないか!」
慶ちゃんが言った。
「何を言うの、フランス王妃が空豆なんてもらえるわけないじゃない!」
「忍ちゃんフランス王妃じゃねーし」
忍ちゃんのボケに慶ちゃんのするどい突っ込みが入る。
「いやなもんは嫌なの!慶ちゃん何かと変えなさいよ!」
「じゃあスルメと変えてあげるよ!」
「イカくさいスルメよりは空豆のほうがいいわよ!」
「イカくさいのがおいしいんじゃないか!」
慶ちゃんが忍ちゃんに反論する。
神様の眷属系の精霊は、生ものや動物系のものはキライだと思っていたんだけど、
慶ちゃんに聞いてみると、干し昆布とスルメと鯛は例外的に好きな精霊が多いらしい。不思議だな。
エビス様の眷属も海洋系のものがスキで、鯛以外にもマグロもいけるらしい。そこらへんが面白い。
「何?私とやろうっての!」
忍ちゃんは拳をふりあげる。
「やってやろうじゃないか!」
慶ちゃんも拳をふりあげる。
「この!この!この!」
「この!この!この!」
言いながら二柱は拳を前に出してブンブン上下に振り回した。
「茶番!茶番!茶番劇!宇宙刑事茶番!」
楽しそうに剣ちゃんが叫んだ。
そうしているうちに忍ちゃんと慶ちゃんの拳が近づきすぎて当たってしまい、ゴツッと音がした。
「痛っ」言いながら忍ちゃんが手を引っ込める。
「ごめんね!当たっちゃった?痛かった?」
慶ちゃんが心配して駆け寄る。
「いいえ、慶ちゃんこそ痛かったでしょ、ごめんね」
心配そうに忍ちゃんが言った。
慶ちゃんの目がうるむ。「忍ちゃん!」
「慶ちゃん!」
二柱ががっしりと抱き合う。
「宇宙けいーじちゃばーん!」
剣ちゃんが叫んだ。
家に帰って剣ちゃんの戦利品のカッテージチーズを剣ちゃんに食べさせてあげた。
感想を聞くと「口の中がしゃこしゃこする」と言っていた。
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