家に帰ってからふと考えた。
慶ちゃんと忍ちゃんと剣ちゃんにスーパーで買い物をしてあげた事に関して、
私は剣ちゃんに何を買ってあげたか、度忘れしてしまった。
どうしても思い出せない。
剣ちゃんに聞いても忘れてしまったという。
ここで、ふと私は不思議に思った。
私が覚えてなくても、もし、私と剣ちゃんが別のパーソナリティである場合、
剣ちゃんが覚えていてもかしくないはずだ。
結局、剣ちゃんたち精霊は私の頭で考えだした妄想ではないかと思いはじめた。
すると、剣ちゃんは必死になって私にしがみついてきて
「思い出したよ!ブロッコリーだよ!ブロッコリーを買ってもらったんだよ!」と言い出した。
でも、それは口から出まかせだと分かる。
ブロッコリーみたいに調理しなければたべられないものをもらっても精霊はあまり喜ばない。
イチゴとか、そのまま食べられるから好きだ。
家の冷蔵庫にもブロッコリーは入ってないし、あきらかに嘘だと分かった。
私の気を引くために、嘘をいっていることがわかった。
「そんなのウソじゃん、だって冷蔵庫にブロッコリーないよ」と言うと
剣ちゃんは目からポロポロ涙を流しはじめた。
「剣ちゃんが居ることを嘘だと思ったら私消えちゃうよ、死にたくないよ」
可哀そうになって剣ちゃんを抱きしめた。
「大丈夫だよ、居ると信じてるから、だいじょうぶだよ」
「ほんと?ほんと?」不安げになんども確認する剣ちゃん。
「剣ちゃんだけずるいぞ、くるわっ!慶タンも抱っこするの!」
慶ちゃんが寄ってきてバンバン私の背中を叩いた。
あいかわらず空気を読まない子だ慶ちゃん。
ふと、慶ちゃんに聞いてみようかと思った。
「ねえ、慶ちゃん、私が剣ちゃんに買ってあげたものってなんだっけ」
「フジッコのお豆さんの黒いやつだよ」
慶ちゃん即答。
あわてて冷蔵庫に確認しにいくとフジッコのお豆さんが入っていた。
こんなお惣菜みたいなの、めったに買わないから、忘れてた。
剣ちゃんもそんなに好きでもないし。
剣ちゃんのために買ってあげて、私はたべないけど、父親がけっこう好きなので、
父親が食べて消化してくれるかなと思って、これを買ったんだった。
完全に忘れていた。
私が何度考えてもおもいださなかったのに。
慶ちゃんはそれを知っていた。
ちょっとゾッとした。
つぶらなクリクリ目玉で不思議そうに私をみつめる慶ちゃん。
「だっこー!だっこー!」
言いながら私の服の袖を勢いよく引っ張る慶ちゃん。
「あー、はいはい、服がのびるからやめてね」
そう言いながら、慶ちゃんを抱っこしてやった。
気がつけば忍ちゃんが目の前にいる。
「しょうがないわね、今日は特別に私をだっこさせてあげてもいいわよ、ありがたくおもいなさい」
「別にいいです」
私は即答した。
「あら、あとで後悔してもしらないわよ、私は……私は……」
みるみる忍ちゃんの鼻の頭が真っ赤になって目がうるんでくる。
「はいはい、抱っこさせてくださいね」
私は忍ちゃんを抱っこした。
「ふっ、うっとおしいわね、抱っこなんて、私、子供じゃないのよ」
不快そうにそっぽを向く忍ちゃん。
でもなんだか笑えた。
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